サンタフェ研究所などで現在も多彩な研究を展開する研究者による複雑系研究を俯瞰する入門書。著者は、ホフスタッター(「ゲーデル,エッシャー,バッハ―あるいは不思議の環」など)の大学院生として複雑系研究の草創期にこの領域に参加し、以来つねに複雑系研究の最先端に身をおいてきた。そうした内側からの視線も含めて、複雑系研究が、どのような背景から芽生え、発展し、また批判にさらされてきたのかをコンパクトに概観している。読み物として平易であり、ウィットにあふれていて楽しい。また、批判者も含め、複雑系に関わる人々への視線がフェアであるのも心地良い。
筆者の専門領域に引きずられて、若干、離散的な対象の研究の記述への偏りがあるようにも感じるが、むしろ新鮮で驚きを持って楽しく読める。ウルフラムの「新しい科学」をここまで正面から平易に解説しようと試みている入門書は他にないかもしれない。
結びは、冒頭で広げた風呂敷をたたみきれているとはいえないが、それは、複雑系科学という領域そのものの現況を素直に表現しているともいえる。
複雑系を学ぼうとする方に、最初の1冊として強く薦められる快著。文句なく☆5つです。