Selective Bottleneck

De Duveが述べたsingularityの成立メカニズムのひとつにselective bottleneckがある。
生物がある機能を実現するやり方が、自然選択によってひとつに絞り込まれる場合を指している。

ここでは、自然選択とは何か、それはどのように機能するのかをまとめ、生命の〔デザイン〕が発現する表現型と自然選択の相互作用により、どのようにしてsingularityが確定するのかを考察し、その輪郭を描きだしてみたい。

1. 生命の樹

地球上の全生命には共通の祖先がいて、30億年以上という気の遠くなるような時間をかけ、大きさも姿も能力も住処も異なる膨大な数の生物種に分岐した。これは、19世紀中葉にダーウィンが提案した自然選択による進化の理論を基盤とする生命観であり、現在、広く受け入れられている。ダーウィンの「種の起源」からほぼ100年後、ワトソンとクリックによってDNAの二重らせん構造が明らかにされ、これを引き金に、分子レベルの生命科学が爆発的に進展し、今もめくるめく展開をつづけている。
現在、たとえば下のような精細な進化系統樹を描けるほどに解明は進んでいて、生物種間の系統関係が高い確度で明らかになりつつある。

Tree of Life

中心の共通祖先から、現生種がどのように分岐して来たかを示す。線の長さは、生物種間の遺伝情報の差違を反映している。紫、緑、赤の色分けは、順に真正細菌、古細菌、真核生物の全生物界の3つのドメインを示す。図は http://itol.embl.de より。Letunic and Bork (2006) Bioinformatics 23(1):127-8, Letunic and Bork (2011) Nucleic Acids Res doi: 10.1093/nar/gkr201

では、この系統樹は、この地球で起こった生命進化の歴史の概要を描写しているといえるだろうか? この問いに、きっぱりとした「Yes」「No」を与えることはできないが、答えは、どちらかといえば「No」に近い。
この進化系統樹に記載されている生物種は、すべて現在地球上で生きている現生種である。高精度の進化系統樹を作成するために、生命科学者はゲノム情報を用いる。生命情報をコードしたゲノムDNAを得られる生物が、ほぼ現生種に限られる。琥珀に閉じこめられた昆虫など、ごく稀な例外はあるが、すでに絶滅した生物のDNAを手に入れることはほとんど不可能である。
したがって、進化系統樹に描きだされるのは、現在、地球上で生き延びている生物たちの系統関係に限られる。
では、どの程度の生物種が絶滅したのだろうか。全生物種の70%以上が短期間に絶滅する大量絶滅がこれまでに少なくとも5回あったと考えられている。これら「ビッグ5」と呼ばれる大量絶滅だけに限っても、99.9998%[ref]オルドビス紀末、デボン紀後期(F-F境界)、ペルム紀末(P-T境界)、三畳紀末、白亜紀末(K-T境界)の絶滅率を順に85%、82%、90%、76%、70%として概算[/ref]の生物種が絶滅している。
大量絶滅の期間でなくても、日常的に自然選択は起き、だからこそ生命は進化している。そして、選択された個体がいる陰には必ず淘汰され死滅した個体がいる。上の図のような進化系統樹には、これら30億年以上の膨大な過去の期間に死滅した生命の姿は一切ない。先の99.9998%という数字を用いるなら、絶滅した生命の運命をも書き留めた、生命進化の歴史を描きだす進化系統樹には、少なくともこの5000倍の枝が書き加えられなくてはならない。