1200ページ以上ある「トートラ 人体の構造と機能」のコンサイス版。分子細胞生物学でいえば「細胞の分子生物学」に対する「Essential細胞生物学」のような位置づけの教科書。初心者にも平易に書かれており、図版も多く美しい。各章末に理解を確認するための練習問題が用意されており自習書としても十分に使える。
旧来、形態を学ぶ解剖学と、機能を学ぶ生理学は別個に教授されてきた。解剖生理学という考え方は比較的新しく、形と機能は分かちがたく連動しているのだから、同時並行に学んだ方が効果的であるという発想に基づいている。TortoraとGrabowskiによるこのシリーズは、解剖生理学の教科書の中でも定番で、原書はまもなく次の版が刊行される。
近年、多くの学生が生命科学を志しているが、中でも多数を占める分子細胞生物学を専攻する方には、細胞より巨視的なレベルである、組織、器官、個体の生物学を学ぶ機会を十分に得られない方も多いと思われる。我が国の大学では、医学系以外の学部で「生理学」を冠する研究室が激減しており、自然、生物個体の機能を対象とした生理学を学ぶ機会も減っている。本書が対象とするのはヒトの解剖生理学に限られるが、かたちや機能の生命科学を自習したい方にもオススメできる教科書だ。