1943年、シュレーディンガーがナチスの手を逃れて亡命したアイルランド・ダブリンのトリニティカレッジで、専門分野とは異なる生命に関する講義を行った。その講義録「生命とは何か」は物理学者をはじめとする多くの科学者を生命科学の領域へと誘い、二重らせんDNAの発見のきっかけになったとされている。
その記念すべき講義から50年にあたる1993年、同じダブリン・トリニティカレッジに「生命とは何か」を追及する当代超一流の研究者たちが招聘され、シュレーディンガーへの50年後の回答をそれぞれ講演した。本書はその講演録である。
演者の顔ぶれは凄いという言葉では語り尽くせない破格ぶり。グールド、ペンローズ、カウフマン、ジャレド・ダイアモンド、メイナード=スミス、ド・デュープ、ウォルパート、アイゲン、ティリング、ハーケン……1冊の書物で、これだけの顔ぶれの研究者というか賢者たちの当時最先端の考えを読めるものは絶無といっても過言ではないだろう。
すでにこの講演会からも15年以上の月日が流れ、グールド、メイナード=スミスといった講演者の一部も鬼籍に入った。しかし「生命とは何か」という生命科学でもっとも簡潔かつ最大の問いに正面から答えようとしたそれぞれの講演は、総じて、年月を経てもその鋭さは衰えておらず、今読んでも大いに刺激的。
最終章は講演会のバンケットにおいてシュレーディンガーの息女ルース・ブラウニツァーが講演した父の回想で、これもまた、貴重な掌編。
それぞれの講演は、多岐、複雑、高度な内容で、必ずしもわかりやすい内容とはいえないが、多彩な立場の研究者が、きっぱりと自分の生命観を述べており、読む者を刺激するアイディアや思索が高密度に詰まっている。