原書は米国出版協会の「Best Mathematics book of 1998」を受賞した良書。実際、酵素反応速度論や電気生理の基礎から、視覚、消化吸収、循環などの高次現象までを幅広くおさえた、数理にも生理にも偏らない、真っ向「数理生理学」の教科書であり、他に類をみない本である。ただし、和訳は必ずしも優れているとはいえない。散見される読みにくさ、専門用語の誤訳などには目をつぶるとしても、文章やパラグラフがまるごと訳されていなかったりする部分もあり、さすがにいかがなものかと思う。原書を脇に置きつつ読み進めることをオススメする。
和訳では「システム生理学」のサブタイトルが付けられているが、その内容は、巨視的(macroscopic)な現象の数理生理学である。上巻で言及された微視的(microscopic)な現象のモデルを活用しつつ、循環や腎での尿生成、消化吸収、視覚、聴覚などの複雑だが身近な現象のモデリングと議論が展開される。難解な部分も多いが、数学を用いることで生命科学がいかに深まるか、そのポテンシャルを体感できる。上巻同様、翻訳には難あり。内容だけなら5つ☆の良書。