脳のなかの水分子—意識が創られるとき

脳のなかの水分子「いち・たす・いち」「ぷらす・あるふぁ」につづく、中田力教授の「脳の渦理論」第3作。複雑系科学を俯瞰する「いち・たす・いち」、脳の渦理論の確信を描く「ぷらす・あるふぁ」に対して、本書は、筆者がこの理論へと至った背景が綴られている。

ライナス・ポーリングへの畏敬の念が全編にわたって語られ、同時に科学界というコミュニティへの心情も強く吐露されている。科学という営みも人間の手によりなるものである以上、完全な「公正」はありえない。その中で、いかに科学的真理を求めるのか、を自然科学者ひとりひとりが考えなければならないわけだが、現在は、そもそもそうした視座に到達する研究者自体が限られている状況にある。筆者自身が渦理論をどう携えていこうかと試行錯誤するようすは、ある意味理不尽ではあるが、科学者として至極真っ当な懊悩と受け取った。

「いち・たす・いち」「ぷらす・あるふぁ」と本書を再編して、1冊にまとめた作品を読みたいと思う。そうした形で読まれた方がおそらくは幸福な書物ではなかろうか。

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