de Duveの最新作「Genetics of Original Sin(原罪の遺伝学)」。とりあえず斜め読み。エピグラフは真っ向勝負の創世記3:6 内容は、この大上段のエピグラフをしっかりと受けきっている。書こうとしている内容に較べれば200ページは短いが、フランス語の原著を出版したとき91歳なのだ。
目次を全訳してみた。小見出しの各項目は1〜数ページなので、これだけで全編の要約になっている。de Duveのこれまでの著作を読んだ人なら、おおよそ内容の見当はつくだろう。「Singularities」の時にも感じたが、これはde Duveの集大成だなあと思う。
そして、時代を代表する科学者として、また、幼少期よりカトリック教会で教育を受け、カトリックの大学で学び教鞭を執った科学者として、宗教への言及に踏み出さざるをえなかったのか、とも感じる。第4章は、科学者という枠を敢えて踏み越えて書いているのではないか(第4章の内容は見出しからだけでも断片的な印象があるが、de Duve自身、introductionにおいてsketchであると述べている)。
「原罪 Original Sin」の章が13番目に配されているのは、おそらく偶然ではあるまい。
90歳を超える高齢を圧して、なお1冊の書物を世に放ってくれたことを心から感謝して、改めて読み進めたい。
第1部 地球上の生命の歴史
第1章 生命の単一性
- 知識の進歩は「中心主義」を払いさった
- 地球には歴史がある
- 生命にも歴史がある
- 生けるものすべてが共有する多くの特徴がある
- 生命の歴史は分子の配列に書き込まれている
- 生命進化は規定の事実である
- 宗教的立場から進化への反論が広がっている
第2章 生命の起源
- 地球上の生命は、若い惑星が物理的にその存在を許すようになって程なく現れた
- 生命の起源は不明である、しかし、科学的に受容可能なのは、自然に生まれたという仮説だけである
- 生命の構成要素は宇宙のいたるところで自発的に生まれている
- 地球は宇宙に存在する構成要素が相互作用できる「大釜」をつくった
- 生命の起源の最初の一歩は、変哲のない化学だった
- RNAの出現が、生命の起源の鍵となる一歩だった
第3章 生命の進化
- 微生物は化石にはごくわずかな痕跡しか残さなかったが、その長期にわたる地球上での生存の軌跡を別の形で数多く残してきた
- 微生物は2つの主要なグループに分離した
- 大気中の酸素は生命による地球への主要な貢献である
- 真核細胞の誕生によって、生命は新しい世界への進出を開始した
- 内部共生は真核生物が生まれる上で鍵となる現象だった
- 原生生物は単細胞生物の究極の王者である
- 多細胞は労働の分担を可能にした
- 植物は水中で生まれ陸地に侵出した最初の多細胞生物だった
- 動物の進化は捕食機能をめぐって進行した
- 海中の非脊椎動物が動物としての生活を開始した
- 体節制が脊椎動物への道を切り開いた
- 異なるいくつかの動物系統が、水から陸へと上がった
- 恐竜から鳥類と哺乳類が生まれた
第2部 生命のしくみ
第4章 代謝
- 細胞は化学工場である
- 細胞は必要とするエネルギーを環境から抽出する
- 代謝反応には数千の専門の触媒が関わっている
- 代謝経路は並外れて複雑なネットワークをつくっている
- 私たちが何ものであるかは、体内の触媒によって決まる
- 代謝の歴史は最初期の生命へと遡る
第5章 生殖
- 生殖は分子の複製からはじまる
- 細胞の出現によって、分子複製に加え、細胞分裂が生殖に加わった
- 多細胞生物は単一の母細胞によって生殖する
- 多細胞生物の母細胞は親に由来する2つの細胞から有性生殖によって生まれる
- 有性生殖による染色体の倍加は、配偶子の成熟過程における減数分裂によって訂正される
- 有性生殖は進化の実験室である
- オスとメスの配偶子は異なる
- 植物の生殖には胞子が関わる
- 種子と果実は、受精卵から生まれでた植物胚を発芽の時まで匿う
- 菌類もまた胞子によって生殖する
- 動物では、親の機動性によって精子と卵細胞の結合という形式が好まれることになった
- 脊椎動物の受精卵は例外なく水性の媒質中で発生する
第6章 発生
- 胚発生に関する最初の研究は、純粋に記述的だった
- 実験発生学によって発生機構の解読がはじまった
- 発生は遺伝子の転写調節に支配されている
- マスター遺伝子に支配された転写調節によって、遺伝子群はひとつの階層構造に組織化されている
- ホメオティック遺伝子群はもっとも重要なマスター遺伝子である
- 進化と発生は密接に結びついている
第7章 自然選択
- はじめに遺伝ありき
- 人工選択は規定した目的のために遺伝の不完全性を利用する
- マルサスは「生存競争」の概念を導入した
- 自然選択によって、遺伝の不完全性によってつくりだされる多様性の中から「生存競争」の勝者が選ばれる
- 自然選択は今まさに私たちの目の前で機能している
- 自然選択にさらされる突然変異は、目的を欠いた偶然事象である
- 進化における偶然の役割は、厳格な拘束条件によって限定されている
- 長く信じられてきたより遙かに高頻度に最適な選択が起こっている
- 進化は環境条件に大きく影響される
- ゲノム中に潜在的な進化が存在しているかもしれず、それらは環境条件によって顕在化しうる
第8章 それ以外の進化のしくみ
- ラマルクは獲得形質の遺伝を主張した
- DNAはラマルク遺伝の媒体とはなりえない
- DNAが関与しないラマルク遺伝の例がある
- 進化には選択とは関係ない遺伝的浮動が伴う
- 理論的には自己組織化が進化事象を駆動しうる
- 進化の重要な段階のいくつかが「知的設計」によって導かれたということがありえるだろうか?
第3部 人類の冒険
第9章 人類の出現
- アフリカは人類の揺りかごである
- 彼らは未だ人類ではなかった、しかし、すでに石器をつくりだしていた
- 人類以前の祖先はおよそ200万年前にはじめてアフリカを旅立った
- 移住の第二波が起こり、ふたたびアフリカを発った
- 言語の獲得は、ヒトになるための決定的な一歩だった
- クロマニヨン人から現代的な人類がはじまった
- ネアンデルタール人に何が起こったのか?
- 生まれた土地を離れ冒険し生き延びたものだけが現代人類として残った
第10章 人類の脳をつくる
- 脳はニューロンによって構成されている
- 大脳皮質は謎めいた良心の座である
- 動物の脳が、350 mlの容積をもつチンパンジーの脳に進化するのに6億年を要した
- 人類の系統では、脳の容積が350 mlから1350 mlに拡張するのに2〜3億年を要した
- 人類の脳は幾度もの連続する停滞期を経て拡張してきた
- 脳容量が停滞期から次の停滞期へとS 字状に飛躍的に増大する理由は、解剖学的拘束条件によるニューロンの対数的増加の抑制によって説明できるかもしれない
- 人類の脳の拡張は、女性の骨盤の大きさならびに生存のために許される出生時の未熟さの程度によって制限されている
第11章 私たちの遺伝子の輪郭
- ヒトの成立には、驚くほど少数の個体しか関わっていない
- ヒトへの道程はおそらく二足歩行からはじまり、二足歩行をはじめた局地では地勢的に選択上有利であったのだろう
- 脳の拡張がヒトへの道程の主要な2番目の段階を導いた
- 予期せぬ環境の変動が、ヒトへの道程の第3段階を方向づけた移住へと促したのかもしれない
- ヒトの成立は、偶然か、必然か?到達点か、一段階か?
第12章 成功の対価
- 脳の力を利用して、人類は際限なく繁殖し、この惑星の資源の大部分を自らの利益のために搾取した
- 人間の歴史は、戦争と対立の絶え間ない連続である
- 人類の極端な進化的成功は、地球上の生育条件の深刻な悪化という損失と引きかえに得られた
- このままのやり方をつづければ、人類は恐るべき試練に直面するか、さもなくば絶滅する
第13章 原罪
- 自然選択は、今すぐ成功するために役立つ個体の能力を、なんであれ無分別に優遇する
- 自然選択は、集団内での結束を好む特性、異なる集団間での敵対を好む特性を優遇する
- 自然選択は、将来のために目前の利益を犠牲にすることを求める配慮や知恵を優遇しない
- 原罪とは、自然選択によってヒトの遺伝子に書き込まれた過ちに他ならない
- この遺伝的原罪を贖う唯一の可能性があるとすれば、自然選択に対抗しうる類ない人類の能力である
第4部 将来の挑戦
第14章 選択1:何もしない
- 何もしなければ、人間は災厄に直面する
- 人類が絶滅するとすれば、それは、人類の失敗によるのではなく、成功による
- 「超人類」が人類の後を継ぐのだろうか?
- 地球が生命を宿すことができなくなるまでに、50億年ちかくが残されている
- ヒトの脳よりもさらに発達した脳では何がおこりうるだろうか?
- 人類の出現により、進化は、もはや自然選択の奴隷ではない地点に到達した
第15章 選択2:私たちの遺伝子を改良する
- 優生学は穢れた言葉となった
- クローニングは監理された進化への道を開いた
- どんな目的のためにクローニングを用いることができるか?
- ヒトのクローニングは激烈な倫理的論争を引き起こす
- いずれにしろクローニングによって人類が救われることはないだろう
第16章 選択3:脳を配線しなおす
- 脳の配線はエピジェネティックな現象である
- 教育は揺りかごの中ではじまる
- 政治的ならびに特に宗教的な指導者たちは、世界が必要とする忠告を広めるために格好の立場にいる
第17章 選択4:宗教への求め
- 教会は人類の救済にあたり格別な役割を果たしうる
- 宗教は合理的思考ではなく信念に根ざしている
- 多くの宗教が、自らを真実の擁護者と位置づけている
- 宗教の教義は倫理的指向に大きな影響を与える
- 将来の命への希望は、今を生きる命に与する努めを妨げるものとなりうる
- 宗教どうしは戦おうとしているのか、それとも手を携えようとしているのか?
- 教会は数多くの貴重な活動に従事している
- 私たちは何をすべきだろうか?
- 教義なき倫理は可能である
- 科学と宗教の対話が望まれるが、困難である
- 宗教はその影響力を通して、科学はその知識を通して、人類の救済のために緊急に協働しなければならない
第18章 選択5:環境保護
- 環境保護が人類の関心事になったのはごく最近である
- 環境学は人々の日々の暮らしの隅々に行きわたっている
- 環境学は主要な論争の原因にまでなった
- 核エネルギー:賛成?反対?
- 基本的な発見が、革新的応用への道を開いた
- GMO:激情に火をつける略語
- GMOは自然の神聖性に対する暴虐だろうか?
- 環境主義には果たすべき決定的な役割がある
第19章 選択6:女性に機会を
- 好戦性は本質的に男性の性向である
- 多くの文明では、女性は男性より下位に置かれている
- 現代世界における女性の社会的地位の向上は勇気づけられる変化である
第20章 選択7:人口の制御
- マルサスの予見した危機が勃発した
- 人口問題の解決策として選別を許容することはできない
- 何としてでも出生率を減らさなければならない
- 出生制限の奨励が必要である
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