分子細胞生物学をコアとする現代の生命科学が孕んでいる誤謬と、それに起因して突き当たるかもしれない限界について主張する論考。筆者は生化学と哲学のダブルドクター。
現代の生命科学における遺伝子が、巨視的な表現型を反映する遺伝子Pと、分子レベルのDNA配列を指す遺伝子Dというまったく別の2つの概念の「つぎはぎ」であり、両者がシームレスに連結可能であるという根拠のない前提がそこに潜んでいる危険性を指摘する。そして、この概念が成立する過程を振り返り、シュレーディンガーによる記念碑的講義と、ワトソンとクリックによるその予言への解答が「つぎはぎ遺伝子」概念を強固なものにしたと主張する。
「生命システムのすべては遺伝子(ゲノム)にコードされている」という言明に疑問を感じない人にこそ、一読の価値のある示唆に富んだ優れた一冊。