「システム生物学」という新領域の牽引者・北野宏明さんによる一般向けの書籍というだけで価値がある。20世紀末から北野さんが提唱し論じてきたシステム論的な生命科学やロバストネスから、比較的最近議論しはじめたネットワークの蝶ネクタイ構造まで、「北野理論」とでも呼ぶべき論考のエッセンスがコンパクトにまとまっている。北野さんの考え方にはじめて触れる読者には格好の1冊といえるかもしれない。ただし、これはほんの糸口でしかない。
一方で、書籍としての構成や内容は、ひとことでいってお粗末というレベル。北野、竹内という2名の著者がいるのに、一人称「私」がどちらの視点であるのかがほとんどのセクションで明らかでなく、しかも視点は頻繁に入れ替わっている。北野と竹内ではこの本が語る対象に対する立ち位置がまったく異なるのだから、話者の視点が不明確なのはある程度以上に深い論考を展開する上で致命的だ。
構成も、それぞれのトピックがぶつ切りになって放り出されている感が拭えず、1冊の書籍として俯瞰したときの全体像が曖昧である。それらの結果として、語られている諸概念の表面をなぞることはできても、それ以上に深い考察に触れることはできない。素材の魅力を充分に活かしきれていないという点はかなり残念。