「Singularities」の邦訳。De Duveは、非常に魅力的な著書を書いていますが、邦訳が少ないので、まず、本書の邦訳が出たことに拍手。生化学レベルの普遍的事実、事象から、生命システムを構成する素過程の由来を議論するという姿勢は以前から一貫しています。本書では、化学式や模式図などの図表を多用し、簡潔な段落構成で、生命の構成要素からヒトの進化まで、著者の解釈が幅広く、コンパクトに披瀝されています。コンパクトなだけに、流し読みしてしまうと、生化学、分子生物学のショートレビューのように見えてしまうかもしれませんが、エネルギー代謝やセントラルドグマなどあらゆる教科書で書き尽くされた対象を、明確にDe Duveの視点で再描写してみせるというのは、それだけでも大した仕事です。何を解説するかではなく、どのように解釈しているか、が、De Duveの著作の神髄であり、オリジナリティです。生命科学の入門書としてではなく、生命科学を一通り学んだ上で読んだ方が、その独自性と価値を深く味わえるかもしれません。