放浪の天才数学者エルデシュ

放浪の天才数学者エルデシュ 1996年に他界した、今世紀を代表する数学者エルデシュの伝記、というか逸話集。
 決まったポストを嫌い、世界中を放浪して多くの論文を書く数学者がいるとう話は、ずいぶん前から聞いたことがあった。それが、本書の主人公ポール・エルデシュらしい。その放浪癖は、数学者には変人が多いことの端的な例として挙げられるのだが、本書を読むと、なるほどエルデシュという人は、かなり奇妙奇天烈な人だが、是非とも会ってみたくなる。敬い遠ざけたくなるような変人と違って、エルデシュには、人間離れした知性や振る舞いとともに、人間らしい優しさと愛嬌が同居している。
 エルデシュは、毎年のように世界25カ国ほどを渡り歩き、予告もなく各国の知人の家を訪れては、夜討ち朝駆けを気にもせずドアを叩き「わしの頭は営業中だ」と告げる。コーヒーと薬物の助けを借りて、1日19時間を数学に費やし、数学以外のことは何も知らなかった。靴ひもも満足に結べず、雨が吹き込んだら窓を閉めるということすらできないほどに!
 エルデシュは400人以上の共同研究者と、1500以上の論文を書いた。どちらの数字も、空前絶後だ。1500の論文のほとんどが、数学を前進させる重要な論文であり、また、かれは共同研究者を求めることにより、若き数学者を育てた。
 エルデシュは愛されていたし、いまも愛されている。
 その象徴に、エルデシュ番号というものがある。
 エルデシュと共著論文を書いた人物は、エルデシュ番号1だ。エルデシュ番号1の人と論文を書けば、エルデシュ番号2、エルデシュ番号2の人と一緒に論文を書けば、エルデシュ番号3といった具合に付される番号で、現在、エルデシュ番号7までが確認されており、それ以外の人のエルデシュ番号は∞である。エルデシュ番号によって、数学者のネットワーク図が描けるが、それを解析した論文があるくらい、エルデシュ番号は数学の世界ではポピュラーであり、エルデシュ番号1は羨望の的であるようだ。
 3歳で三桁のかけ算をこなし、4歳で負の数を自ら発見したエルデシュ。本書を読むことにより、とんでもない天才が世の中にはいて、また同時に、愛すべき人間であったと実感できる。それは、人間という生き物の持つ可能性の広さすら感じさせてくれれる。
 同時に本書は、20世紀を彩った数学者たちをも概観しており、数学の美しさを垣間見るには、絶好の書となっている。

 原題は“The Man Who Loved Only Numbers”こちらの方が断然すばらしい。